天井は巨大なスクリーンとなり、映画のようなものが映し出されていたともいう。
当初、男は単なる風邪、若干拗らせてしまった風邪だろうと考えていた。その夜はとてつもなく息苦しくて、結局そのまま夜が明けてしまった。
翌朝、病院で診察を受けるや否や、意識が混濁してICUへ入れられ、2ヶ月近くの挿管そして麻酔で眠らされることとなった。突然、黄泉の入口を覗く機会を与えられたのだ。
男は老齢のうえ、長年嗜好した煙草の影響で肺機能が25%まで落ちこんでいた。所謂、肺気腫である。くわえて肺炎を患ったことで、残りの25%の肺機能も奪われしまっていたのだ。
「身体に酸素が行き渡っておらず、とてつもなく危険な状態です。ご家族はそれなりの覚悟をしてください」と、医師は宣った。
男は語る。
非常に良いプランやアイデアが次々に湧いてくるんだ。子供に戻って、昔住んでいた家にも帰ってきた。現世で解決しなければならない問題にも取り組んでいた。
黄泉の国から還ってきた男は恐ろしいほどの眼力だった。頬はこけ落ちて、目玉だけが飛び出ていた。