2008年12月20日土曜日

拙く淡い記憶-回想愚憚-其の参

ふたりは再び、超高層ビル登頂へのチャレンジを開始した。
重い脚を持ち上げる作業に必死であるため、ふたりは言葉を発することができなかった。ひたすら、脚を上の段へ運ぶ作業に専念していた。右脚を上げれば、次は左脚。左脚を上げれば、次は右脚。

単純な作業を寡黙にこなすだけだ。

きっとこの作業は永遠に終わらないものなんだな。ふたりは考えていた。
まったく、そのとおりであった。
いつまでも階段は続いていた。何度となく脚を持ち上げても、必ず次の段が待ち受けていた。

おいっ!
突然、下の階から男性の怒声が響いた。

ふたりは覗きこむこともせず、捕食動物からとっさに逃げる草食動物のごとく、駆け上がった。
もちろん、男性も駆け上がってくる。ふたりは嗚咽のような息遣いで、ひたすら段を蹴り上げていった。