2008年12月13日土曜日

硬貨を分泌する女性

朝起きると、寝床に50円硬貨があった。

しばらく起こっていなかったのに、体質はまだ変わっていなかった。女性はその硬貨を拾い上げて財布に仕舞いながら、思うのだった。
この現象を最初に体験したのは、中学生のときだった。硬貨は10円だった。そのときから、忘れた頃に5円、1円、10円と硬貨が布団のなかに紛れ込んでいることが続いていた。
硬貨の金額はまちまちだが、枚数は必ず1枚のみだった。

女性は信じて、疑わなかった。
これらの硬貨は私の身体から分泌されたものだということを。
この現象について、絶えず周囲の人間に伝えてきたが、誰も真に受けるものはいなかった。

女性は現在、30代後半である。
今まで、布団のなかに紛れ込んでいた硬貨はすべて使わずに蓄えてある。しかし、貯めたところで金額は大したものではないだろう。
金額が問題ではないのだと女性は言う。この稀有な体質こそが、私がこの世に存在している証しなのだから。

女性の両親が語る。
確かにそのようなことがあることは、娘から聞いたことがある。でも、そんな話は一切信じてはいない。
それよりも皆が就寝した真夜中に、娘の部屋から硬貨を数えるような物音がしたことが度々あったという。